第3章 第2日目・男子SP
ついに男子SP最終グループの滑走時間となった。
スタッフの誘導で、勇利達は控室から出ると会場までの通路を進む。
やはり注目はJAPANジャージを身に纏った唯一の特別強化選手である勇利と、同じくジュニア強化選手の伊原・アレクシス・礼之だが、その勇利から少し遅れて歩く純の姿にも僅かなどよめきが起こった。
「何か、久々だな。この2人が揃ったのは」
「『西の勝生』と『京の上林』か。まあ、どうせ勝生の圧勝だろうけど、今年の男子は面白いモノが観れそうだ」
「判らないぞ?去年みたいな大波乱も充分あり得るかも」
「上林も、腐っても元・強化選手だしな。どこまで食らいついてくるか…」
「勇利くんと純くんの再戦はおいも嬉しかとばってん、2人が好き放題言われるのは納得できんばい」
「言いたい奴には言わせとき。氷の上まで行けば、誰にも邪魔はされへんしさせへん」
「随分、冷静なんですね」
無責任な周囲の揶揄に母親譲りの美貌を不快気に歪めながら、南の隣を歩く礼之が純に話しかける。
「ペアやダンスでない限り、氷の上ではみんな独りきりやしな。一見狭いようで広いリンクの中でこれから孤独に戦わなあかんのに、他の事構ってる余裕なんてあれへんわ」
他人の事よりまずは自分の事やで、と続けられた言葉に、南と礼之は互いの顔を見合わせた。
リンクに到着すると、客席は選手を応援する家族や一般のファンその他大勢の観客や色とりどりのバナー等で埋め尽くされていた。
「そういえば、いつも勇利を応援してはるバレエのセンセは、今日も来てるん?」
「それが、一昨日からインフルエンザに感染したみたいで、今回は欠席」
「あらー…そら、しんどいなあ」
昨夜純と別れた後ホテルで休んでいた勇利の元へ「何でアタシ、こんな時にかかっちゃったのよぉ~」と長谷津にいるミナコから泣き言の電話がかかってきたのだ。
安静にするよう言ったが、きっと今頃は『ゆ~とぴあ かつき』の代わりに自室のTVの前でふて寝観戦しているのだろう。