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【YOI・男主】愚者の贈り物

第2章 第1日目・SP滑走順抽選会


勇利の反応が思い切り素だったので諸岡は些か拍子抜けしたようだったが、気を取り直して勇利の隣で温和な表情を崩さない純へマイクを向ける。
「上林選手の目標は?」
「僕は、頑張って勝生選手と同じフリーの最終グループに入りたいな、と。せやけど、僕より若くて上手な子がぎょうさんいてますから、油断でけへんわ」
「…そうですね。西日本選手権を1位で通過した南選手や、ジュニアから参戦したフィンランド人の母を持つ伊原(いはら)選手達の活躍も見逃せない男子シングルのSPは明日です!」
もっと勇利と純の2人にスポットをあてるつもりが、純の巧みな切り返しにより当初の予定と狂ってしまった。
しかし、彼ら2人の再会という画は取れたし、今後の活躍が期待できる若手の取材も重要だと思い直した諸岡は、2人に礼を言うとその場から立ち去った。

「純くんのお陰で、僕あんまり喋らなくて済んだよ。有難う」
「純でええよ。僕も勇利て呼ばせて貰うわ」
「そう?じゃあ…純」
「うん、ええ感じや」
以前はしていなかった呼称を、勇利はちょっとだけ照れ臭そうに呟く。
「いよいよ明日やな。お互い、体調と怪我には気ぃつけて頑張ろな?」
「うん。僕も純のスケート、楽しみにしてるよ」
「ホンマに?勇利にそう言うて貰えるなんて、お世辞でも嬉しいわ」
先刻カメラを前にした時とは違った飾り気のない無防備な純の笑顔を見て、勇利は「あ、」と短く声を上げる。
「…どないしたん?」
「えっと、純が笑うと右側だけ笑窪が出るの久々に見たな…って」
「えーやめてや。何気にコンプレックスなんやから、これ」

その後ニ、三言葉を交わしてから純と別れた勇利は、西郡と共に滞在先のホテルへと移動した。
「どうした?」
どことなく様子のおかしい勇利に気づいた西郡が呼びかける。
「僕ってつくづく自分勝手で薄情な奴なんだなって」
「…お前、何しにここに来てるんだよ。まずは自分の演技に集中しろ。上林と話し合うのは、それからでもできるだろ?」
「……判ってる」

それでも、過去にはそれなりに交流のあった純との事を、今日実際に彼と再会するまで殆ど忘れていた自分の不実さに、勇利は改めて深いため息を吐いた。
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