第6章 なか
「でも今年は貴女に祝えてもらってすごく嬉しいのよ。だからもう何もいらないわ」
「アイリーン…」
ーあたしはアイリーンと友達になってそんなに長くない。でも彼女のためになにかしてあげたい。
「アイリーン、あたし、セバスチャンに言いたいことあるの」
「え?」
シェリーはそれだけ言うとアイリーンの部屋を出て階段を駆け下りていった。一人取り残されたアイリーンはベッドに改めて寝転がるとイヤリングを外して机の上に置き、そっと瞼を閉じた。ああなったシェリーは止められないだろう。
一方のシェリーは駆け足で屋敷の門をくぐると何やら買い物を済ませて帰ってきたセバスチャンと鉢合わせになった。
息を肩でして荒々しく呼吸を見せるシェリーにセバスチャンは目を丸めた。
「どうされましたか、シェリー様」
「あなた、最悪な執事ね」
鋭い目つきでセバスチャンを睨みつけるシェリーにセバスチャンはなおさら目を丸くする。
どうしてシェリーがこんなにも怒っているのか分からないセバスチャンはなだめる言葉が出てこずただ怒っている人間を見つめていた。
「お嬢様の誕生日は毎年祝うものだわ、あなた、執事なんでしょう?あたしもメイドの出だから分かるのよ」
シェリーはセバスチャンの胸ぐらに肩であたるとさっきまでよりもずっと切れ味のある瞳でセバスチャンを見上げた。
「お嬢様あっての執事だということを忘れてはならないわよ」
吐き捨てるように、誰かを庇うようにも聞こえる説教をしたあと、シェリーは再び屋敷へと戻っていった。
セバスチャンはしばらく固まったままだったが、左手に持っていた高級感のある袋の持ち手の金色の紐をぐっと握る。
「執事…失格…」
ー私の悪魔としての美学が遂行されない…
「今夜はステキなパーティーにいたしましょう」