第6章 なか
「いいよ」
アイリーンはクローゼットから出てくると少しげっそりしたような面持ちだった。
「セバスチャンはどこに行ったの?」
「しーらなあい」
ー今日が自分の誕生日だってことに気付いてないのかしら、アイリーンは。
シェリーはそんな訳ないと肩をすくませてベッドに横たわるとアイリーンも横に寝転がってきた。
シェリーの茶色の髪とアイリーンの黒髪が混じり合い、ベッドに広がっていた。
アイリーンは体をシェリーの方に向けるとふふと笑ってみせた。
「ねぇ、あのメイク道具って私への誕生日プレゼントだったんでしょう?」
急に確信を突かれてシェリーは体を活きのいい魚のように震わせた。
その様子にアイリーンはまた笑うと今度は天井を仰いだ。
「私ね、セバスチャンと過ごして今年で5年目なのだけれど、まだ誕生日を祝ってもらったことがないわ」
「嘘でしょ」
「ほんと。セバスチャンは自分の誕生日を覚えてないって言うし、私の誕生日なんて私が言うまで知らなかったのよ」
シェリーは思わず言葉を失った。
「今年こそ今年こそと思って待ってる私が馬鹿みたいに思えてきてもう去年からは誕生日を祝ってもらうなんて諦めてたの。今年も諦めようと思っていたのだけれど、貴女が素敵なプレゼントをくれたからまた期待しちゃうわ」
悲しげに笑うアイリーンの横顔はとても弱くただ一人の女の子として一人の執事に祝ってもらいだけの無力な女の子に見えた。
いつもは気丈に振る舞って他に誰も寄せ付けないような完全無欠の女伯爵、アイリーン。
でもやはり根本はただの女の子だと言うことにどうしてもっと早く気付いてやれなかったのかとシェリーは唇を噛み締めた。