第12章 重なり合う牙
「何か調べ物を?」
脚立の下に落ちている分厚い本を拾い上げて、棚に戻していく。
本というよりかはアルバムのようで、すっぱい古本ならではの匂いがした。
「調べ物というか…」
アイリーンが大事そうに抱えているのもどうやらアルバムのようで、開けて見ると、白黒の写真が1ページに6枚ずつ貼られていた。
「こちらがお嬢様ですか?」
「えぇ、そうよ」
セバスチャンは白い手袋をはめた指で幼少期のアイリーンを指さした。
幼少期のアイリーンは母親らしき人物のドレスの裾を掴み、真正面を向いて微笑んでいた。
「今もこうして笑っていた方が可愛らしいですよ」
セバスチャンはアイリーンの口角を指でおさえて、くいっと上にあげる。
目は全く笑っておらず、不格好で引きつった笑顔にされたアイリーンはセバスチャンの手首を掴んで引き剥がそうとする。
「う、るさい…わね…離して!」
「失礼いたしました」
パッとセバスチャンは手を離し、後ろへ1歩下がる。
「で、何か用があって来たんでしょ?」
「あぁ、そうでした。本日の夜は空いていますか?」
アイリーンはセバスチャンからの誘いだということを認識するのに数秒かかった。
そして、そのことが分かると、顔に熱を帯びながら一気に赤く染め上げた。
「あっ、あああ空いてるわよ」
目が泳いでしまってセバスチャンの顔が見れない。
「良かった。先日は勝手に私がお見合いをさせてしまったので、そのお詫びをさせてくださいませんか?」