第6章 なか
「こーんにちはーー!!」
シュリーの元気な挨拶の声が玄関ホールに響いた。
アイリーンは胸元の大きなシルクのリボンを整えて階段を駆け足でおりる。コツコツとヒールの音が高らかに鳴る。
そして玄関のドアを開けると笑顔でシュリーが立っていた。
普段着用のドレスだが、たくさんのフリルなどであしらわれており、とても動きやすそうには見えなかった。
「もう、いつもこのベルを鳴らしてって言ってるでしょ」
「ああ!そうだったわね!」
シュリーはアイリーンに連れられて屋敷の中に入るとするりとアイリーンの腕に腕を絡めてきた。
「で、今日はなんかあったの?」
「今日?なにもなかったわよ」
「…うそ、信じらんない」
アイリーンは小首を傾げてシュリーの様子を伺う。なにをここまでがっくりしているのだろうか。
シュリーは「まあ、いいわ」と言うとアイリーンに自室へと案内するように言った。
「今日はあたしがメイクを教えてあげるわ、あなたはそのままでも十分なのだけれど今日くらいおしゃれしましょ」
自室についてシュリーが強引に扉を開けると化粧台に向かって走り、引き出しを引いた。
引き出しを引いてみるとカランコロン…とリップが転がるだけだった。
「…これだけ?」
「え、ええ…」
シュリーは左手にずっと持っていた革製のバッグを広げると中からたくさんのリップやアイシャドウ、マスカラにアイライナー、ビューラー、チークなどアイリーンが見たことのないメイク道具ばかりだった。
アイリーンは真っ赤な色のリップに手を伸ばすと、くるくると持ち手を回して口紅を出した。太陽の光に照らされて赤色が光る。
そっと唇に口紅を引くと今までの気分とはすっかり変わり、少し背伸びをした気がした。