第6章 なか
私はワゴンを押しながら厨房へと戻っていた。
懐中時計を確認するとあと少しでディナーの時間だった。
「あっ、セバスチャンさん!」
服が泥だらけになっているフィニは私に向かって手を振ると、軍手についていた土もぼたぼたっと重い音を立てて床に落ちた。
増えた仕事に頭を悩ませながらも私はフィニの方へと歩いていった。
「なんです、フィニ」
「明日はお嬢様の誕生日ですよね?どうされるんですかあ?」
私に稲妻が走った。
「そうでした…明日はお嬢様の誕生日でしたね」
「もしかして忘れてたんですか?」
いえ、とだけフィニに言うと私は足早との場を立ち去った。
明日はお嬢様の誕生日。ディナーにはフルコースを出すとして食材は足りるのだろうか?
この間、調達してきたばかりだから大丈夫だろうか。
プレゼントはどうしたらいい?
ニナに新しいドレスでも仕立てさせるか、いや、その時間はない。
じゃあ何が良いんだ。
広間の飾り付けは赤のバラやリボンで豪勢にしよう。
お嬢様の服装は普段通りに、そう言えば明日はシュリー様が来られるのでその間にでも準備を済ませてしまおう。
私は頭の中で段取りを決めると厨房の冷蔵庫を開けた。
冷蔵庫には色とりどりの野菜や肉など豊富に揃っていた。予想通りだ。
「ディナーまであと1時間」