第1章 一輪の花
「きゃっ!」
急に扉が開いたものだからその拍子でアイリーンは前向きに倒れかける。
すると腰を誰かに取られ、本日2回目の体がふわりと浮く感覚を感じる。
「鬼ごっこは満足しましたか?」
「げ…セバスチャン…」
セバスチャンはにこりとアイリーンに微笑んでみせ、片方の空いている手で銀時計を取り出す。
「10時48分。ハッシュ夫人のフランス語講習には間に合いますね」
「今度は逃げ切れると思っていたのに…」
アイリーンはむすっとした顔をして四角い箱を投げたりキャッチしたりする。
「悪魔から逃げ切れないということはお嬢様が1番よく理解しているものだと思っていました」
セバスチャンがすっと細めた妖艶な瞳でアイリーンを見る。
「…たしかに。あなたから解放されれば自由がつかめるのかもしれない。なんて考えた私は馬鹿みたいね」
「ええ、とても愚かで滑稽(こっけい)でしたよ」
「…この悪魔が」
アイリーンはキッとセバスチャンを睨む。セバスチャンは相変わらずの微笑みを浮かべたままその威嚇を軽く払いのける。
「はい」