第1章 一輪の花
「お疲れ様でした」
昼食は疲れ切ったアイリーンの要望により部屋に運ばれていた。
セバスチャンは主人をねぎらう笑顔を見せて机の上に昼食を次々と並べていく。
「本日の昼食は、ラムのラベンダー焼き、ビートのサラダ、玉ねぎのポタージュでございます」
アイリーンはナイフとフォークを握るとラムのラベンダー焼きにナイフを入れ、切れたラムを口の中に入れる。
柔らかいラムの食感とラベンダーの良い香りが口の中に広がる。
「疲れた…私、あのハッシュ夫人苦手なのよね」
「少々個性的なお方ですよね」
「分からなかったら『そんなことも分からないんでざますか?さあアゲイン!』っていう時の声高すぎよ」
セバスチャンの脳に言われてげんなりとしているアイリーンの顔が重い浮かんだ。
「とても想像できます」
「で、これからの予定は?」
「午後からは劉様と製菓会社取締役のアイゼン様がいらっしゃいます」
アイリーンは昼食をたいらげてしまうと大きく伸びをする。
「そうだったわね…疲れる…」
「ちゃんと接待してくださいましたらご褒美のキス、差し上げましょうか?」
セバスチャンはいたずらっぽく微笑み、アイリーンとの顔の距離をじりじりと縮める。
アイリーンはセバスチャンの肩を掴み押し返そうと奮闘する。
「い、いらない!」
「そういう素直じゃないところがとっても愛らしいですね」
ちゅっとアイリーンのおでこにセバスチャンが唇を落とす。
アイリーンは顔を赤くするとセバスチャンの頰をつねる。
「いはいれふ、おひょうふぁふぁ(痛いです、お嬢様)」
「私は図書室にいるから!なにか用があったらきなさい!」
アイリーンはセバスチャンの頰から指を離すと駆け足で部屋の扉をあけ、一歩外に出る。
しかしくるりと振り向くと
「からかわないで!!」
とだけ言って図書室に駆け足でむかっていってしまった。