第1章 一輪の花
「さむっ…」
アイリーンは寒気を感じた。それはここが地下室なせいだろう。
貴族の屋敷というのは抜け道がいくつか作られているもので、リュシアンナ家も例外ではない。
コツコツとブーツの踵をならして地下室の廊下を歩いていく。
武器や茶葉、ワインなどがたくさんあり、独特の雰囲気を醸し出している。
「なにこの茶葉…」
“Angel's aphrodisiac”と描かれた四角い箱。蓋は所々さびれていて年代を感じさせる。箱に描かれている天使が楽しそうに踊る絵は不思議とぞっとする。
嗅いだことのない匂いにはじめて見た茶葉。
ー好奇心がくすぐられるじゃない
アイリーンは謎の茶葉のはいった四角い箱を持ち、さらに廊下の奥へと進む。
代々、王室の汚れ役を引き受けてきたリリュシアンナ家。
共同で汚れ役を引き受けていたファントムハイヴ家は何者かにより屋敷が焼かれ当主と夫人は死亡。子供は行方不明だという。
棚にはその歴史を物語る拘束具や拷問具などもあった。
「扉…」
重たそうな鉄の扉。アイリーンはその扉を押してみるがいっこうに開かない。
諦めかけていたそのとき、急に扉が軽くなり、重い鉄の扉はいとも簡単に開いた。