第1章 一輪の花
「きっとフィニのことだからぽろっと言っちゃってるわね、庭って」
アイリーンはバラがたくさん植えられた花壇のところに身を潜めていた。
普通のドレスだと動きにくすぎるのだが、アイリーンがいつも着ている普通のドレスよりもかなり丈が短く大人しいデザインのミニドレスは普通のドレスよりも動きやすい。
「仕方ない、あの抜け道を使って…ってもうあいつこんなとこまで?!」
アイリーンが体の方向を変えた先にはもうすでにセバスチャンがキョロキョロと庭を散策していた。
黒の燕尾服を着た大きな身長の執事は白バラの庭園では目立つ。
しかしその精緻な顔立ちは白バラによく似合うもので思わず目を奪われてしまう。
目を…奪われて…
ー私が目を奪われてどーすんのよ!はやく抜け道に行かないと!
アイリーンはすくっと立ち上がると白バラを一気に屋敷まで駆け抜ける。
「あ、お嬢様!」
セバスチャンの制止を無視してアイリーンはレンガを押すと人1人が入れるくらいの穴があき、そこにするりと滑り込んでいく。
「はあ…本当に面倒臭いお方だ…」
冷たい風がセバスチャンと頰を突き抜ける。
白バラの花びらがセバスチャンの瞳の上にそっと落ちる。
「逃げ切れるわけないのですがねえ…」
白バラの花びらからすける血の赤の色。