第4章 いつでも
汗が頰を伝う。アイリーンは喉もとを通る自分の汗を感じながらこの部屋はなにかおかしいと確信した。
さっきより濃くなった甘ったるい匂いはなんなんだろう。
「どうして?」
「ロンドンで次々に犬が消えてった話、知ってるでしょ」
ミアが銃をおろしてパチンと指を鳴らす。するとミアの後ろにぶっきらぼうに立っていた男が扉を開けて少し大きめのケージを部屋に引きずりこんできた。
ケージの中には5匹の犬がはいっており、薄暗い部屋の中では犬種までは確認出来ないがきらりと光った首輪の宝石にアイリーンは気付かされた。
「その犬…ロランド夫妻のパピヨンね」
調査資料を見ているとき、1匹だけ首輪にダイヤモンドをつけている犬を見たことをアイリーンは思い出した。
ミアはええ、と言うとケージの上に座る。
「私が得意とするロンドンで犯罪を犯すことなんて容易いの。きっとこの事件が裏の者によるものだとヤードが認識すればあなたがロンドンに来ると思ったわ」
オレンジのランプで照らされる金髪が怪しくゆらめく。
目の前の視界が少しずつぼやけていき、アイリーンは鎖に身を預ける。
「…つまり、最後の犬である女王の番犬を殺すためね」
「ふふ、素敵な言葉遊びでしょう?」
ミアは立ち上がるとアイリーンの方へ向かって歩きだす。部屋にはコツコツとヒールの音だけが響く。