第1章 一輪の花
アイリーンは静かに詩の書き取りを黙々と進めていた。
ちなみに今書き取りをしているこの詩も何回も書き取りをしたことがあり、内容などは分かりきっていて正直つまらない。
「ねえ」
「何でしょうか」
「飽きたわ、ここら辺の詩の書き取りは」
コツンと鳩ペンを机の上に置き、大きく伸びをするアイリーン。
セバスチャンは整理していた書類を1つにまとめてゆっくりと椅子をアイリーンの方に向けながらかけているメガネのブリッジのところを指でくいっと押す。
「だからといって数学をしようとするとお嬢様はお逃げになるでしょ…ってなぜあなたがここにいるんです、フィニ」
今までアイリーンが座っていたはずのところにフィニが座っていたのだ。
セバスチャンはまたか…とため息をつくとかけていたメガネを机の上に置く。
「10時32分。確か11時から昼食までハッシュ夫人によるフランス語のお勉強があったはず。遅れてはなりませんね」
セバスチャンはぱちんと取り出した銀時計を燕尾服の中にしまい、フィニに視線を向ける。
「お嬢様はどこです」
「えっとね〜、たしか庭に行くって言ってたよーな」
「庭ですね」
部屋の窓を開けるとセバスチャンはサンにつま先を乗っけて身を乗り出して窓から一気に庭へと降りる。
「あっ!このことはセバスチャンさんには言うなって言われてるんだった!あとでお嬢様に殺されるう〜」
フィニは青ざめた顔でその場から立つとセバスチャンと同じように窓から飛び降りた。