第4章 いつでも
「あちらの方かい?」
ジョンがアイリーンの手首を握っていた手を離し、セバスチャンを指差す。一方でセバスチャンの周りにも女性が集まっており、笑顔で談笑していた。
「ええ」
「可哀想なカナリヤ…君は彼に十分に愛してもらっているのかい」
アイリーンの頰をジョンの左手がなぞる。さっきから止まらない悪寒が吐き気に変わってしまいそうだ。
「…分かりません…彼はモテるので私なんて…」
アイリーンが床へと視線を落とし、自信のないレディを演じた。その様子を見たジョンは遊ばせていた左手をアイリーンの足元に滑りこませ、軽々と持ち上げた。
「こちらにおいで。僕が彼の知らない君を暴いてあげよう」
「ちょ、ちょっと!ジョン様、私たちとの約束は?!」
肩にショールをはおったいかにも成金臭そうな女性がテーブルに荒々しくグラスを置いて凄まじい形相でアイリーンを睨む。アイリーンはおろおろとした表情を見せて腹の中で笑っていた。
「君たちは僕の小鳥になりそこねた醜いアヒルの子なんだよ。この子とはちがう」
さっきまでの甘いひとときはどこに行ったのかと言いたげな顔をした女性たちは口々になにかをつぶやきながら散り散りに去っていった。
「さあアイリーン。行こうか」
まっすぐに広場を突き抜け、赤いカーテンをめくる。するとそこには金のドアノブがありジョンが片手で開ける。中には広々とした廊下があり左右には銀色のドアノブがついてあり、きっと疲れた貴族が休むための部屋が立ち並んでいるのだろう。
「ここはどこですの?」
「ちょっとした部屋さ。大丈夫、僕らが寝られるくらいのスペースはある」
ーこいつ、ヤる気だ。
遊び人の感覚はよくわからないいや分かろうとも思わないと頭の中にいる小さなアイリーンが大きな声で叫ぶ。