第1章 一輪の花
「いっ、今からしてきますだた!」
メイリンは敬礼を見せるとドタドタと音を立てて洗濯室へと駆けていった。
「ところでお嬢様」
セバスチャンのアイリーンを横抱きにして肩を支える方の腕に力がこもる。アイリーンは顔をひきつらせると今すぐに降りようともがき始める。
「朝食後すぐにどこかへ行かれてしまったものなので…本日の予習でもなさりに行かれているのかと思いきや…私のレッスンをサボるためにずっと屋敷中を歩きまわっていたのでしょうか?」
「うっ…」
「まさかまさか、昨日の復習をしていないとでも言いませんよね?」
アイリーンは目をふらふらと泳がし、暗黒のオーラをまとったセバスチャンの瞳と目を合わせないようにする。
「はあ…仕方のない方ですねえ…これからみっちりラテン語の詩の書き取りをしていただきます、いいですね?」
アイリーンはあえてなにも返事しない。あとで言い訳するためだ。
「言い訳しようと返事しないのはダメですからね」
どうやら見透かされていたようだ。
「は、はい…」
「よろしい」
セバスチャンの微笑みが黒くなっていた。