第3章 従順
「私があ、あたなの恋人役ですって?!」
「あたなではなく、あなた、ですよ。落ち着いてください」
ワゴンの上を整理して、セバスチャンはまっすぐにアイリーンを見る。
「明日のパーティに来られるキール社社長のジョン社長のことについて調べあげていましたら、なんでもジョン社長は根っからの性悪ということでございまして」
机に肘をついて頭をかき、はあとアイリーンはため息をつく。
「…他人のものを横取りするのが好きなわけね…」
「はい。ですので、お嬢様には私の恋人役を演じて頂き、私が席を外したあとさっさと寝取られてください」
「ちょっと、お嬢様に言うこと?それ」
眉をあげ、眉間にシワを寄せる。
「失礼いたしました」
それに対してセバスチャンは柔和な笑みを浮かべてみせ、ワゴンをドアの方へと動かす。
「それでは失礼させて頂きます」
ドアが閉じられると、アイリーンは勢いよく机に突っ伏した。
止まらない鼓動に高まる熱。軽い微熱にでも浮かされたように頭がふわふわする。
恥ずかしさを紛らわすように足をバタバタさせると、ガタガタと机が揺れる。
ーセバスチャンの恋人役ですって?ただそれだけなのに…なんでこんなにも心が落ち着かないのかしら…
「そうよ、本を読めばいいんだわ」
アイリーンは立ち上がると書斎を後にした。