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【黒執事】壊れた貴女を看取るまで

第3章 従順


アイリーンはくるくると椅子を回しながら窓の外を見ていた。
時計を見ると3時を表しており、セバスチャンはきっとアフタヌーンティーの付け合わせでも焼いているのだろう。かすかに甘い香りがする。

「…暇ね…」

ふと机の引き出しに手をかけてみる。金の美しい持ち手を手前に引いて中を見る。
中に入っていたのは普通の手鏡より大きい手鏡だった。
銀色の縁周りには蝶やイバラのレリーフが施されており、蝶の目にはサファイヤがはめ込まれていた。
手にとってみるとずしりとした重みが伝わり、顔の前に手鏡を持ってくる。

「ふーん…私こんな顔なのね」

ぱっちり開いた瞳にすっと切れた目尻。最近お手入れ不足と寝不足でくすんだ肌が少し気になる。

「んー…肌が少し荒れてるかしら」

鏡を覗き込む。
刹那、歪んだ自分の顔が映し出された。
目は細められ、口元がいやらしく上に口角を描いている。口の端からはよだれが垂れ、頰を包み込む手はガサガサに荒れている。
伸びすぎたボロボロの爪はなぜか黒く、自分の頰を引っ掻く。

「あら?震えているの?」

エコーがかかったような声が鏡から聞こえてきて、アイリーンの肩が跳ねる。

「だ、れ…あなた…」

「ふふっ。お可愛らしい声だったのね、私」

「私…?」

くすくすとほくそ笑む鏡の中の自分は息を荒げる。

「そう…私はあなた…もうすぐ貴女は悪魔に壊されるのよ…」

引っ掻かれた鏡の中の自分の頰から赤い血が垂れ、それがアイリーンの机にポタリと落ちる。

「あなたは…私…な、の…?」

「何回も言わせないでよ。私はあなたなのだから」

鏡の中が黒い煙を覆って自分が消える。

「お嬢様、次はお鏡遊びですか?」

ー黒い…髪…

「いやっ!」

アイリーンの手から鏡が落ちる。後ろから手が伸び、鏡をキャッチする。

「…なんだ…セバスチャンなのね…」
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