第3章 従順
セバスチャンは最後のクローゼットの扉を閉める。
「誘われてるのかなって思ったじゃないか」
あははと笑うエリの胸元を掴み、アイリーンは前後に揺らす。
「大体、私は部屋に入っていいなんて一言も言ってないの!」
「だって1人でさみしかったんだもん」
子供みたいな言い訳にアイリーンは盛大なため息をつくと勢いよくエリの頰を両手ではさむ。
「そこに使い勝手の良い執事がいるじゃないの」
エリはセバスチャンを見る。
セバスチャンはエリと目が合い、ふっと笑いかける。
笑いかけられたエリもいつものお気楽な笑顔とは違い、少し色っぽさが滲んだ笑顔をセバスチャンに向けた。
「やっぱり君じゃないとやーだ」
アイリーンは腕を引き寄せられ、エリの腕の中に閉じ込められる。
「えっ、ちょ、離して」
間近に感じるエリの呼吸と心臓の音に戸惑った顔を浮かべる。
エリの胸板に手を当てて腕の力でエリを押し返そうとしたが、アイリーンの力ではとても叶わず、余計に引き寄せられる。
ちらりとセバスチャンを見ると鋭い目付きでエリを睨んでいた。
エリはそれを確認したかのように笑い、アイリーンを解放する。
「アイリーン」
「なに?」
振り返るアイリーン。
「悪い狼に食べられないようにね」
最後にお気楽な笑顔をアイリーンとセバスチャンに向けるとエリは部屋を出て行った。
「お嬢様、明日のことで少々お話がございますので後ほど書斎にお越しください」
「分かったわ」
セバスチャンもそう言い残すとエリの後を追うように部屋を出て行った。