第3章 従順
ーはじめ、私は何をしているのだろうと思いました。
悪魔の空腹というものは自らの欲求に非常に貪欲であることを知っていた私は目の前の餌に過剰な良い香りを感じた。
甘く鼻腔をくすぐるような匂い。突き放すような刺激的な匂い。
どれも私を誘うような香りに私は耐えられなかった。
「はあっ…ん…いやあ」
「何がお嫌なのです?言って下さらないと分からない」
自分でも訳の分からないくらい興奮していた。
きっと飢えのせいなのだろう。
この喉が乾くような感覚が消えれば大丈夫だ。
「それ…いや…なの…んあっ!」
大きな嬌声。今まで聞いてきたどの嬌声よりも甘い。
声すらも私の頭の中心をえぐりまわすように駆け巡り私をさらに高揚させる。
白い肢体に浮かび上がる玉のような汗にそっと舌を這わす。
「もう…この…駄犬があっ…」
そういうお嬢様の声は力なく吐息で抜けており普段の皮肉さなどは感じられない。
まるで本能のままに喘がされている自分のことを言っているようにも私には聞こえた。
「その駄犬に喘がされているのはどこぞのダメ主人なんでしょうねえ」
クスクスと余裕を見せて笑うが正直限界だ。
今すぐにでも食べてこの腹を満たしたい。
すると手に強烈な痛みが走った。よく見てみるとお嬢様が私の手を噛んでいた。
ぷつりぷつりと滲む赤い血がシーツに垂れて白に赤が滲んでいく。
「ふふ…」
私はあなたのものなのにそれでいてまだ自分のものだと主張したがる。
なんて愛しくて愚かなお嬢様。
まさかその気にでもなっているんですか?
ー私は悪魔、ですよ