第3章 従順
ロンドン。
今は社交界シーズンでロンドンには各地から人が集まってくる。
粧し込んだ人々が街を闊歩しているが、とある淑女は違った。
「だからなんであなたがここにいるのよ!答えなさい、エリ!」
「まあまあ落ち着いてよ、マイハニー」
「私はあなたの婚約者なんかじゃないから!」
襟元を掴んでアイリーンは前後にブンブンと激しく振る。エリと呼ばれた青年はヘラヘラと笑いながらどうにかしてアイリーンの機嫌をとろうとしている。
「今日も可愛いよ、アイリーン」
少しクセがある銀色の髪。その銀色の髪と同じ色をした瞳。白い肌に長い白のまつ毛。まさしく色素が抜け切ったような容貌は人とは思わせにくい。しかし挑戦的な視線と口元は女慣れを連想させて近寄り難いような危なっかしい色香をまとっている。
「きもい。むり。5点」
褒め言葉に点数を付けられたエリはわざとらしく肩をすくめてアイリーンの手首を掴む。
「久しぶりだね」
挨拶のキス、と言ってエリはアイリーンの頰に軽くキスをする。アイリーンは大きく腕を振りかぶるとエリの頭を勢いよく叩く。
「きもい!むり!」
「あはは、今日も相変わらずつれないなあ」
「あなたもね。なんでここにいるの?」
「君に会いたかったから」
最後まで言葉を聞かずにアイリーンは早足で階段を上がり自室に行こうとする。
「ちょっと!ほんとに君はそういうところが可愛らしいね」
「無理」
パタンと扉が閉じて自室へと姿を消す。
「セバスチャン」
「はい」
エリに呼ばれてセバスチャンはエリの方向を見る。
「ちゃんと見てあげてね。彼女のこと」
少しの間を置いてセバスチャンはふっと笑うとエリの前に跪いた。
「もちろんでございます」