第2章 犬
「…さま、お嬢様!」
「っ、はあっ…はあ…」
アイリーンの目尻から溢れた涙が枕にしみこんでいる。毛布は床に落ちている。
「だいぶうなされておりましたので…大丈夫ですか?」
「…はあ…はあ…」
アイリーンは起き上がり、額に手をあてて大きく息を吸い込む。
「暗闇…お父様が…」
ぽつりぽつり吐き出される言葉。あれは夢だったのか。
「怖かったのですか?」
セバスチャンが顔を覗き込んでくる。紅茶色の瞳がじっとアイリーンを見据える。
「あ…ああ…あ…」
地面が揺れているような衝動が全身を駆け巡り、アイリーンはセバスチャンに抱きつく。
「ねえ…こわい…私、を…1人にしないで…」
セバスチャンはアイリーンをそっと抱きしめかえすとアイリーンの黒髪を撫でる。
「ええ。1人になどしませんよ。私はあなたの執事ですから」
「…そうね…取り乱してしまってごめんなさい」
アイリーンはセバスチャンから離れる。