第1章 一輪の花
コポポポ…という心地の良い紅茶の注がれる音が聞こえ、アイリーンは頭をぽりぽりと掻きながらぼーっとその様子を見ている。とてもじゃないが貴族の美しい朝の目覚めとは言えないだろう。
「…だいたい、私が起きないからってほっぺたつまんで起こす奴がいる?」
さっきセバスチャンにつままれていたアイリーンの頰は赤くなっており、そのせいもあってか余計に機嫌が悪そうだ。
「お嬢様が起きられないのが悪いのでは?」
セバスチャンは口元に薄い微笑を浮かべて紅茶の入ったティーカップをアイリーンに渡す。
アイリーンはちっと軽く舌打ちをするとティーカップを受け取り、口に紅茶を含んで喉に流し込む。
「本日はセイロンをご用意させていただきました」
「ふん…良い香りね」
「恐縮です」
飲み終わったティーカップをセバスチャンに渡し、代わりに新聞を受け取る。
「それよりお嬢様」
「なに」
「まだ痛みますか?」
「ええもちろん。どっかのバカ執事がお嬢様の頰を全力でつねってきやがったからね」
あからさまな不機嫌さにセバスチャンはクスクスと笑うと軽く身をかがめてアイリーンの顔を覗き込む。
「たしかに赤くなっていますね」
セバスチャンは赤くなっているアイリーンの頰を指でなぞるように撫でる。
するとちゅっと軽いリップ音を立ててアイリーンの頰にキスを落とした。
「〜〜っ!ちょっと!?」
「私流の痛いの飛んでいけ、でございます」
人差し指を唇の前に持って行き、余裕たっぷりの笑みで微笑んで見せるセバスチャン。
アイリーンは顔全体を真っ赤にしてわなわなと震えているとセバスチャンがアイリーンの顎をくいっと持ち上げて
「おや…顔全体が赤いようですが…まだキスをご所望ですか?」
今度は妖艶な笑みを浮かべてそう問いかける。
「い、いい、いらなーーーーい!!はやく朝ごはんにしなさい!」