第2章 犬
「よし、終わった」
山積みになった書類は全て処理され、一枚一枚にアイリーンのサインがされていた。
後ろにふんぞり返るようにして伸びをすると固まった筋がバキバキと鳴る。
ー悪魔の文献探さなきゃ
イスから立ち上がり、書斎を立ち去ると図書室へと向かう。
すると大きな黒い影がアイリーンの目の前の視界を黒くする。
「んー、重いなー、うわわわ」
よろよろとよろめきながら歩くフィニがアイリーンに覆い被さるようにしてこけそうになる。それにつられてアイリーンも後ろに倒れかける。
このままフィニがこけると間違いなくフィニが持っている白い石像の下敷きとなるだろう。
「えっ、ちょ、危な…セバスチャン!」
「イエスマイロード」
腰を支える感触。フィニはあっ、と声を出して廊下に転ぶ。石像はもうごとんと音を立てて廊下にあるべき形で佇む。
「フィニ、この石像はここではなく玄関に置くように言ったはずでしょう」
「あっ、そうだった」
フィニは手をぽんとついて石像を持ち上げ、階段に向かって歩いていく。
腰を支える手が離れてアイリーンはその熱を切なく思ってしまう。
「もう少しいたしましたらアフタヌーンティーをお持ちします」
「図書室にお願い」
「かしこまりました」
セバスチャンは踵を返していく。
アイリーンも図書室の方へと足を運びなおしていた。