第1章 一輪の花
ボーン…ボーン…ボーン…
「どうされました?なにか落し物でも」
ひょいと何食わぬ顔でセバスチャンが机の下を覗いてくる。
「え?」
アイゼンは顔を真っ青にすると時計をみた。時刻は8時5分。あいつらは撃ってきたはず…。
なのにカーテンには穴1つなく、テーブルの上の料理にもなんの乱れもない。
死んでいるはずのアイリーンとセバスチャン。
「どうやらだいぶ酔っているみたい。お酒はやめてどうぞこちらのパイを」
アイリーンも何食わぬ顔でパイを食べ終えて紅茶を一口啜っていた。
アイゼンは震える手でフォークを手にし、なるべく平静を装いながらパイを一口食べる。すると歯に違和感を感じて、その違和感の正体を口から出す。
「ひ…!」
ころころころ…と震える手から落ちた銃弾。
セバスチャンはニヤリと笑ってアイゼンの耳元でこういう。
「おめでとうございます。どうやらアタリを引かれたようですね」
「あ、ああ…」
アイゼンはイスから立ち上がり、ドアノブにすがりつこうとする。
「おや、もうお帰りですか?」
ひとりでに扉が開き、廊下側にはセバスチャンが立っていた。
「ひ…ば、化け物…!」
泡を吹きながらアイゼンはセバスチャンに向かっていう。するとセバスチャンはより一層笑みを深める。口の端の歯が心なしか鋭く見えた。
「おやおやあ…人間風情がよく私の正体を見破りましたね…」
だらしない奇声をあげてアイゼンは尻餅をつくとセバスチャンはじりじりとアイゼンとの間合いを詰めていく。
「そういえば…アイゼン様のお連れ様方がご予定より早く着いていらしたのでリュシアンナ家流のおもてなしをさせていただきました。これ、お忘れ物です」
コロン、とアイゼンのスーツの胸ポケットに銃弾を入れる。
「アイゼン。お前の悪行は知っているわ。製菓会社に見せかけた武器の貧民への密輸…女王は大変、貧民の銃事件を嘆いておられる…裏社会の秩序を乱すものは許さない」
アイリーンが首筋をなぞると契約印が光る。セバスチャンも手袋を脱ぎ捨て契約印の光っている手の甲をみせる。
「なぜ女王の番犬がどんな制裁を下しているか誰も知らないと思う?」
悪魔の影がゆらりゆらりと広がる。アイゼンの顔はどんどん白くなっていく。
「死人に口なしって言うでしょう?」
悪魔が嗤った。