第10章 綺麗な白色
すごい速さで私の両頬を挟むとぐっと内側に押し込んでくる。
歯に頰のうらの暖かい部分があたるのを感じた。
このままでは喋れないと抵抗をしてセバスチャンを睨み返すとふっと唇に笑みを浮かべてセバスチャンは手を離した。
「睨み返せるではありませんか」
「うるさいわね。ほっといて」
私は椅子から立ち上がり、セバスチャンとすれ違おうとすると咄嗟に腕を掴まれる。
後ろに引っ張られて私は思わず振り返るとセバスチャンがまた険しい顔をしていた。
「お嬢様はいつも一人でお背負いになられる悪いクセがございます。なにかあるなら私におっしゃってください」
「背負ってなんかないわ、私はただ…」
その後の言い訳が思いつかない。視線を泳がせてどうにかセバスチャンの腕から解放されようとするが力は強まっていくばかりだ。
「そんなに私は頼りになりませんか?」
「ちがう、ちがうの…」
私は頭を横に振った。納得させられる言葉が欲しいが出てこない。
セバスチャンが私に向き直るといつもの表情をして私をじっと見つめていた。
話した方が早く済む。
「マーガレットが私に言っていた言葉…覚えてる?」
「ええ。『あなたは誰のためのもの』という趣旨の言葉でしたよね」
「それで分からなくなったの。私は…」