第10章 綺麗な白色
頭の中で何度もこだまする。
こびりついたミートスパゲティのソースの汚れのように私の真っ白な部分に染みを作る。
「お嬢様」
執事に肩を叩かれて私はハッとした。
どうやらうたたねをしてしまっていたようで、セバスチャンは呆れ顔で私を見ていた。
「先日の一件でお疲れなのは存じ上げておりますが、商談相手がかけられてきた電話にさえ出ないほどとは」
時計を見ると確かに商談相手が電話をかけると言っていた時間から10分ほど経っていた。
セバスチャンが話を済ませてくれたのか話の内容を紙にまとめていた。
背もたれに身をもたれさせ天井を見上げる。
「…悪かったわね」
眠気覚ましにと飲んだ紅茶も気持ち悪い温度になっている。
「それは今お取り替えしようと思っていたのですが、ぬるかったでしょう」
「ええ」
セバスチャンは丁寧な所作でカップを取り上げて新しく紅茶を注ぎ込む。
薄く湯気が立ち上るのが見えると私はもう一度ティーカップに口をつけた。
私は誰のためのものなのだろう。
マーガレットの言葉が深く自分に刺さった。
もちろん過去の自分と連動する部分もある。誰にも必要とされず居場所がないあのころを私はよく覚えていた。
だからこそマーガレットに私は負けた。
彼女は死んだが屍となった彼女の顔には柔らかいいつもの微笑みが浮かんでいた。
腹の中で生きていた兄とともに死ねたことに対する喜び。
羨ましくさえ思った自分が許せない。
「お嬢様」
セバスチャンの強い声音が鼓膜を振動させた。
「先程から浮かない顔ばかりです。私の皮肉にもつっかかって来られないですし、調子が狂います。なにかあるのならおっしゃいなさい」