第10章 綺麗な白色
「まだまだいるよ」
セバスチャンの後ろから何かが飛んでくる。それを察知したセバスチャンがかがんで避けるとその吸血鬼の足を掴み、ステンドグラスの方へと投げる。
吸血鬼は軽い身のこなしでなんなく衝撃を吸収するとセバスチャンに向かって花瓶を投げた。
「そのようなもので半殺しにするおつもりですか?」
内ポケットからシルバーを数本取り出し、指の間に入れて吸血鬼に投げると花瓶には三本のシルバーが刺さり、綺麗に真ん中で半分に割れる。
水がこぼれ落ち、黒バラも床に広がった。
「んふ、僕のこと忘れてるでしょ?」
「きゃっ!」
私はとっさに身を後ろにひいてズボンの中に隠していた銃を握った。そして引き金をひくが、くるくると蝶々が羽ばたくようにして弾丸を避けられ、終いには手首を払われて拳銃を落としてしまった。
拾おうとして後ろをむけば血を吸われる。だからといってこのままでもダメだ。
セバスチャンを呼ぼうと口を開けると白い柔らかな手が伸びてきて口を塞がれる。
額に柔らかな金髪がかかってこそばゆい。
「“悪魔は契約者の声で呼ばれればどこにいても契約者を逃さぬように駆けつける”と文献で読みましたわ」
口に口枷を挟まれて私は醜く鳴くブタのような声しか出せなくなった。
完全に閉じられたわけではないので口端から唾液が垂れてしまい恥ずかしい。
「私がセバスチャンさんを誘惑しているときに中断された恨みですわ。その時は『あら、可愛らしい坊やね』くらいにしか思っておりませんでしたが、女となれば話は別です。さあ、ジェーン、ディナーですわ」