第10章 綺麗な白色
ー結局、丸め込まれてしまったわね
私は教会を目の前にして肩を軽くすくめた。
胸を潰すためのコルセットがきつくて今にも息が止まりそうだ。
セバスチャンはいつもの燕尾服にコートを羽織っており、暗闇に同化してしまいそうだった。
「セバスチャ「エドワードさん、来てくださったのですね」
私の言葉を遮ってセバスチャンに弾んだ声で話しかける。
「ええ、紹介します。こちらが私が連れて来たいと言っていた甥のジョンです」
私はぺこりと頭を下げた。セバスチャンと20センチくらいの身長差があれば親子よりも甥と言ったほうがよいだろうという気がした。
マーガレットは自分と背丈の変わらない私を見てにこりと微笑んだ。
その時、私はわかった。
今まで人当たりの良い微笑みだと思っていたが、そうではなく、あの微笑みは他人用だった。
セバスチャンに話しているマーガレットの顔が彼女の本性を表しているようだった。
男の設定の私を見下して一度抱かれただけのセバスチャンのことをもう自分の特別だと思っている。
「嬉しいですわ、私…」
するとマーガレットはセバスチャンに抱きつく。周りには私しかおらず、グッと唇を噛み締めた。
頭の中に熱湯を注がれたかのように怒りが広がり、殺意がふつふつと沸く。
マーガレットはセバスチャンの上半身の真ん中を人差し指でなぞり、耳元に息を吹きかけて豊満な胸を擦り付ける。
そしてセバスチャンの手を掴んで自分の尻の方へと誘導し、そっと這わせる。その瞬間、甘ったるい声をマーガレットが出す。
「それでもシスターなんですね」
私がセバスチャンの横から言い放つ。するとマーガレットは私を冷たい目で睨みつけてセバスチャンから離れる。
「ロンドン中のシスターがあなたのようではロンドンからシスター強姦の事件は消えない訳ですよ」
セバスチャンの手を握り、マーガレットの横を通り過ぎて教会へと入る。