第10章 綺麗な白色
私はベッドに顔を埋めてまた泣いていた。
今回は私が方法を指定しなかったのが確かに悪いとは思う。
しかし、セバスチャンだって私が好きだということを知っているのに主人である私をがっかりさせるのは執事失格なのではないのだろうか。
久しぶりにあんなに怒りをあらわにして自分でもなにかよく分からなくなった。
それでも涙は止まらずにシーツを濡らしていく。
「そんなにお泣きになれては、明日の朝に顔が腫れてしまいますよ」
背後にセバスチャンの気配を感じて私は腕を後ろに思い切り振った。
なにかにあたった感触はなく、空を切って腕は私の元へ戻ってきた。
するとセバスチャンはさっきよりも私に近いところに立って薄く笑いを浮かべていた。
「なによ、笑って。どうせ面白いと思ってるんでしょ?餌が自分に恋してるだなんて、そりゃ悪魔には大爆笑ものね!」
鼻のすする音だけが部屋に取り残される。
私は後ろに体ごと振り返るとセバスチャンがさらに近づいたところに立っていた。表情はさっきよりも固く冷たくなっており、怒っているのは私なのに私に謝れと言っているような目つきだった。
思わず怖気付いて後ずさる。
「ええ。大爆笑ですよ。正直に申し上げますと『ああ、こいつもか』と思いました」
まっすぐ立つセバスチャンに赤い冷たい瞳で見下ろされて生きている心地がしない。
恐怖で涙は引っ込み、涙のあとが乾いていた。
「もうほっといてよ…餌なんでしょ…そんなの分かってる…」
分かっていても口に出せば心が痛い。冷たいつららで心臓を刺されたように胸が苦しくなる。
私はまた泣き出した。両手を目にあててしゃくりあげるとセバスチャンがコツコツと踵を鳴らして私の目の前に来てしゃがみこんだ。
綺麗な顔。長い睫毛。白い肌。あの女の匂い。