第10章 綺麗な白色
「ただいま戻りました」
セバスチャンが書斎の窓を開けて入ってくる。
一日いなかっただけなのに書類が山積みになっていた。
使用人達を残して急な滞在で少し不安だったが、屋敷も綺麗に残っていた。
私は万年筆を置いてのびをする。
「どうやらあのパーティは女性の方は禁止ということです。なにをするのかそこまでは分かり兼ねましたが」
「分かったわ、じゃあ今夜はあなたに任せる」
そう言って私は万年筆を再び持って書類に走らす。さらりと落ちた髪を耳にかける。
「よろしいのですか?私がお嬢様の命令なしに好き勝手しても」
顔をあげて顔をしかめた。それは困る。
「…男装のチョイスはあなたが決めて。私も行くわ」
「御意」
面倒くさいが、飼い犬の手綱は握っておかなければならない。私は椅子の背もたれに重心を傾けた。
セバスチャンが踵を返して書斎を出ようとドアノブに手をかける。
ふと、なびいた燕尾から漂ってくる匂いに私は再び顔をしかめた。
甘ったるいような、この知っている香り。
あまり長くは嗅いだことがない。一時的で限定的なこの香り。
頭の中で柔らかい金色の髪がなびいた。
「おい」