第9章 牙
声を押し殺して泣いているとふと、手元が軽くなりました。
驚いて顔をあげると優しく微笑むエドワードさんがいらっしゃいました。
エドワードさんの端正な顔立ちは見たことがありません。
端正な中にも色気というか危なっかしさを感じる目元と唇に思わず吸い込まれそうです。
「そんなにお泣きになかれて…シスターともあろう方がどうなさったのですか?」
「エドワードさん…そっとしておいてください」
私が修道服の裾で涙を拭こうと肘を曲げるとすかさず、エドワードさんがハンカチを取り出して私の涙を拭きました。
まるで壊れ物を扱うかのようにハンカチを私の頰にあてて、涙を拭き取ると持っていたお盆を廊下に置いているテーブルに置かれました。
「あなたのような魅力的な方の涙を見過ごせる訳がありません。私の部屋にきてお話を聞かせてくださいませんか」
丁寧にほだされて私はエドワードさんの後ろをついていきました。
部屋に入ると私はベッドに座ると、壁は薄いから横の部屋の声が少しだけ聞こえてきます。
するとまた涙が滲んできました。あの女、部屋だからといって大声で喘いでいるのです。
何度も何度も「牧師様」と叫びながら。
私は想像してしまいました。
お兄様の下で乱れに乱れる女、そしてその女に甘い言葉をかけて何度も腰を動かすお兄様。