第9章 牙
教会の朝はとても忙しかった。
朝起きたら急いで朝食を食べ、礼拝を行い、講堂の掃除を済ませて教会の扉を開けると今日のジルの説教を聞きに来た人々がたくさん扉の前で待っていた。
マーガレットと2人で誘導作業を行い、そして私は壇上に飾る白バラを整えていた。
「ぎゃーはっはっはっ!!」
遠慮を知らないうるさい笑い声。私はこの声を聞いたことがある。
声のする方へ首を回すとそこには黒いトンガリ帽子を被り、黒のコートを身に包んで腰に銀色に輝く遺髪入れをこしらえた葬儀屋(アンダーテイカー)が腹を抱えて笑っていた。
そのすぐそばには教会の外の掃除を終えたセバスチャンが立っていた。
私は急いで白バラを整えるとセバスチャンの元に駆け寄る。
「おや?伯爵もいたのかい…ぐふっ、それにしてもこんなに…ひっひっ、修道服がびみょうな男はいるのかい?」
死ぬほど笑ったという表情を浮かべて葬儀屋は黒の長い爪の指をくちはしにあてた。
「葬儀屋。どうしてあなたがここに?」
「ここの教会は最近、お得意様でね。一度見に来てほしいと招待状をもらったんだ。バカだよねえ…信仰ってやつはさあ」
私はセバスチャンと顔を見合わせた。葬儀屋がお得意様だと言っていると言うことは死体が出ているということ。
それは黒魔術によりでた“失敗”なのだろうか。
「死体が出ているいうことね。その死体はどんな?」
「その質問には答えられないよ」
私の唇に葬儀屋が指をあてる。伸びた灰色の髪から黄緑色の燐光が光った。
「と、言いたいところだけれど、さっき執事クンが笑わせてくれたからねえ、答えてあげよう」
私の唇から指を離すと葬儀屋は不敵な笑みを浮かべた。
「1日に数人のペースでお客さんが運ばれてくるんだよ。小生の趣味でいつもちょっとイジらせてもらうんだけどねえ…そしたらないのにあるものが増えてるんだよ」
「ないのに増えてる…?」
「暖かい臓器を食い尽くしてからあれはスタンプのような…契約印をつけられていたんだねえ。いやあ実に深い。黒魔術を成功させちゃうなんて」
「それって!」
「あとは自分の目で確かめるといい」