第1章 一輪の花
「いやあ実に素晴らしい。美しいあなたに屋敷。一流の使用人もいる。そしてこのリュシアンナ玩具会社を急成長させるほどの技量…ぜひ、子供の心の捉え方をお教え願いたい」
「別に何も不思議なことじゃない。私はまだ子供…子供の心は子供にしかわからない、ただそれだけよ」
アイリーンは水を一口飲む。
「なるほど!そういうわけでぜひ、御社との協力をお願いしたくて…」
「こんな商売話はもう飽きたわ。食事中なのだからもっと楽しいお話をいたしましょう?」
アイゼンの眉がぴくりと動き、一瞬だが笑顔が固まる。そしてメインディッシュのシカ肉のソテーにナイフを通す。
「伯爵もちょっと喋っただけで飽きちゃうなんてお子様だなあ、まあそんなとこが伯爵らしくて我は好きなんだけど」
フォークをくるくる回して劉はアイリーンを見る。
「そう。そういえば、今日は藍猫(ランマオ)はいないのね」
「お家でお留守番してるよ、このシカ肉を持って帰ってあげたいね」
「お持ち帰りは禁止よ」
カチャカチャと食器と皿が触れ合う音が少しの間続く。
「そういえば執事く〜ん、君、伯爵に手出したりしてないよね?」
アイリーンは勢いよく飲んでいた水を吹き出し、目の前の食べ終わった食器がびちゃびちゃに濡れる。ナプキンで口の周りを拭くと大きな咳払いをする。
「劉!!今日はアイゼン様もいらっしゃるのにそういうことを言ってもらうのはやめてくれない?」
「だって気になるじゃ〜ん、こんなに可愛くてちっさい伯爵だよ?我ならぱくっと食べちゃってるなあ」
シカ肉を口の中に放り込み咀嚼を繰り返す。
セバスチャンはアイリーンの吹き出した水を吹き、皿を下げると劉に向かって言った。
「劉様、申し訳ありませんが私にはこのような少女趣味は持ち合わせておりませんので…」
「あなたもあなたね」
アイリーンはセバスチャンのスネを蹴る。ちょうど、ヒールが食い込み、一瞬痛そうに顔を歪める。
「なら良かった、伯爵気を付けなよ」
「は?」