第1章 一輪の花
「えっ、女性?」
「男性のほうがよろしかったでしょうか?アイゼン殿」
アイリーンは綺麗な笑顔を見せ階段を降りる。肩周りにあしらわれたダイヤに裾に向かって描かれている美しい刺繍の黒のロングドレス。髪はお団子にくくられており、サイドの三つ編みがそれに上手く絡んでいる。
赤い口紅を塗られた唇がそっと開いた。
「本日は当家にお越しいただきありがとうございます。私がリュシアンナ家当主のリュシアンナ・アイリーンです」
アイゼンの目の前に立つと凛とした声音で言った。
「相変わらず伯爵は綺麗だね〜、なにかしてる?」
劉はアイリーンの後ろにまわると頰をぺたぺたと触ったり、伸ばしたりしている。それをうっとうしそうに振り払う。
「あなたも相変わらずね、劉」
「まあ伯爵のおかげで色々やらせてもらってるからね〜、感謝してるよ」
「さ、アイゼン殿。立ち話も何です、晩餐の準備をさせてあるのでそちらへ行きましょう」
セバスチャンが食堂の扉を開けると整えられたテーブルクロスが見えた。
「この白バラはとても美しいですね」
アイゼンがテーブルクロスの真ん中にいけられた白バラを見て微笑む。
「私が白バラが好きなの。白バラだけはいつもセバスチャンに管理させているわ」
それぞれがイスに座るとアイゼンが喋り出した。