第9章 牙
「おや、ベッドが1つしかございませんね」
セバスチャンがはて、といった表情で小首を傾げる。
そう、問題とはベッドが1つしかないということだ。
しかもダブルサイズでもなく、いたってシンプルなシングルサイズだ。
こんな狭いところに186センチのセバスチャンと164センチの私が寝れるわけがない。
1つ方法があるとすれば
「これでは私がお嬢様を抱えるようにして横向きに寝ないといけません」
その通りだ。
そんなんでは私が寝れなくなってしまう。
「セバスチャンは別に立ったままでもいいでしょ?ベッドで一緒に寝なくても」
悪魔とは便利だ。睡眠も食事も必要としない悪魔をこれほどまでに便利だと思ったことはあっただろうか。
私はホッと一息ついてドレスを脱ぎ始める。ここで生活する以上、ひとりで出来ることはしてセバスチャンとの関係性を怪しまれたくはない。
「私は別に構いませんが、もし消灯時間とやらで牧師様がお部屋を覗きこまれた場合、かなり物騒な感じに見えてしまいますよ?」
想像してみたらたしかにちょっと物騒な感じに見える。
「仕方ないわね…しばらくはあなたとそのベッドで寝るわ。でも邪魔だけはしないでね」
「かしこまりました」
そして私は修道服に腕を通すとかなりフィットした着心地を感じた。最後に金色のロザリオを首にかけるとシスターと同じ格好になった。
一方でセバスチャンもジルと同じ格好になったが、本当に白が似合っていない。
牧師の優しさというよりも色気の方が溢れ出ている。