第9章 牙
「本日のご予定はどうなさりますか?」
ブルベリーの入ったスコーンを頬張る。ブルベリーの程よい酸味が少し甘めの生地にしてあるスコーンとよく合い、紅茶とも合う。
私は紅茶でスコーンを流した。
「一度あの教会に行くわ。なにか手がかりがあるかもしれないし」
「そうですね。しかし、女王の話を聞く限り黒魔術に手を染めているのであれば、すぐにわかる筈ですが」
食堂のカーテンから太陽の光が漏れて、床に差し込んでいた。
セバスチャンが空になったティーカップに紅茶を注いだ。
「…“失敗”が必ず出るからね」
「ええ、何事でもそれ相応のリスクは負わねばなりません。ましてや本来ならそこにいては“ならないもの”を呼び出そうとしているのであれば、かなりリスキーですし」
ティーカップに視線を落とす。綺麗な茶色の紅茶。カップの底に描かれている猫の絵がぼんやりと揺れる。
「“それ”を成功させるためには犠牲が必要よ。私があなたを…呼び出したように」
「“Success can't be grasped without sacrifice.”」
美しい流れる発音でセバスチャンは言う。口の端を上に持ち上げ、目を細める。その表情は笑っているようだった。
「“犠牲なしで成功は掴めない”…」
私がそういうとセバスチャンが恍惚の表情を浮かべる。私の中では最悪の記憶だが、セバスチャンの中では最高の記憶なのかと思うと寒気がした。
食べられることを約束された日を思い出だと言ってアルバムには飾れない。