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【黒執事】壊れた貴女を看取るまで

第1章 一輪の花


「劉(ラウ)。ほんとにここのやつは大丈夫なんだな?」

製菓会社の取締役、アイゼンはタバコを吸う。煙ったい空気が馬車の中に立ち込め、劉は長い袖で鼻をおさえる。

「だーいじょうぶさ、だってまだお子様だもの」

筆で書かれたような目は開いているのか開いてないのか分からない。
アイゼンは吸い殻を灰皿に擦り付け、また新たなタバコを取り出す。

「それより貴殿は吸いすぎなのでは?」

劉がのびのびしたハリのない声で問いかける。

「イライラするんだ、あいつさえ…女王の番犬さえいなければ…」

「我(わたし)は伯爵にはお世話になってるからねえ」

「はっ!でも今日でリュシアンナ伯爵も終わりだ!」

アイゼンが吸い殻を灰皿に何度もぐりぐりと押し付ける。タバコがぐちゃぐちゃになると、とたんに馬車が止まる。
馬車が止まり、扉が開くとそこには大きな屋敷があった。

「本日は当家、リュシアンナ家にお越しいただきありがとうございます。主人が待っております、どうぞ屋敷に」

深く腰をおり、丁寧にお辞儀する執事、セバスチャン。黒の燕尾服はぴしっと隙のないように着こなされている。
セバスチャンに導かれ劉とアイゼンは屋敷へと入っていく。
美しいシャンデリアが光を放っている。壁紙も色は控えめにしてあり、中央にある階段に敷かれているカーペットにはシミも汚れもホコリひとつない。木製の手すりは丁寧に磨かれシャンデリアの光に照らされていた。

「いやあ…実に素晴らしい屋敷だ。美しい」

アイゼンが感嘆の声をもらす。

「先代が美しく残してくれたおかげですね」
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