第9章 牙
私はいつも通りに朝、起きた。
頭がガンガン打ち付けるように痛くて、胸焼けと気持ち悪さも朝には似つかわしくないくらい酷い。
カーテンはまだ開けられておらず、起床時間ではないのだろうが、二度寝はあまりの気分の悪さに出来ない。
「二日酔い…」
昨日あったことはほとんど思い出せない。
唯一、覚えていることといえば浴びるほど酒を飲んだくらいだ。
するとドアがノックされる音が聴こえて私はすっと背筋を伸ばした。セバスチャンだ。
「起きられていたんですね、おはようございます」
セバスチャンが私にワゴンを押しながら近づく。そしていつも通りの所作でティーカップに紅茶を注いでいるはずだった。
それを渡され、私は一口飲む。
「ん?なにこれ」
何も味がしない。紅茶の芳醇な香りも何もない。私はティーカップの中を見るとティーカップの底の花柄がくっきりと見えた。
「本日は水にさせていただきました。昨日、ものすごくお酒を飲んでおられたので水の方がすっきりするかと思いまして」
「ああ…そう…」
「吐き気などは大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。それよりもこの赤いのはなに?」
セバスチャンの首筋に私の親指の爪くらいの大きさの薄い赤い点があった。それもよく見てみれば近くに集中して3つもある。
私がそれをまじまじと見つめる姿にセバスチャンは笑いながら噴き出すと上着を脱いで、リボンタイを外し、カッターシャツを手慣れた手つきで脱いだ。
すると上半身にも首筋にあった点と同じ点がたくさんあった。鎖骨の周りやお腹など、合計5つくらいだろうか。
「その様子だと本当に覚えてらっしゃらないんですね?」
セバスチャンが呆れたように笑い、カッターシャツのボタンを留めて服装を整える。