第8章 変化
「それはあなたが好きだと伝えていないからだわ」
私はグラスに残ったモスコミュールを飲み干した。アルコールが直に脳みそにきたような感覚がして一口だけ水を飲む。
そしてウイスキーのボトルを開けて小さいグラスに注ぎ、一口で飲み切る。
「いい?リジー。あなた、おばけって信じてる?」
リジーがオレンジジュースを飲みながら首を横にふる。
「それを信じろ信じろって言われてあなたは信じる?」
リジーはもう一度首を横に振った。
「愛も同じよ。信じれないものを信じろと言われても信じれるわけがない」
私はセバスチャンの姿を探した。奥のスイーツがのったテーブルにセバスチャンは数人の貴婦人たちと談笑していた。
セバスチャンは私のもので、私だけのもの。作り笑いなのは私には見え見えだが、それすら腹が立つ。
もう一杯、ウイスキーをグラスに注いで小さく一口だけ飲んだ。
頭がぼうっとしてきた。
「だから諦めるの?」
私を責めるような疑問の色が滲んだ声がリジーのピンクの唇から放たれる。
リジーの方を見てみると強い眼差しで私を睨んでいるかのようであったが、怒っているわけではなく、私に何か強い想いを伝えたいみたいだった。
「あたしにはね、婚約者がいるの。一つ年下のね。あたしはその人がだぁいすきよ。だからね、いつも大好きって言ってあげるの」
グラスに残ったウイスキーを飲み干した。新しいウイスキーを飲もうとボトルを持つ。まだまだウイスキーは重かった。
「生きてる間はあっという間なの。こうしてる間もあたしは大好きって伝えたいくらいよ?」
子供には見えない大人びた笑顔に私は背筋がぞくっと震える。
どうしてこの子は。