第1章 一輪の花
ー晩餐の準備は終わった。後はお嬢様のドレスを着させ、お客様をお出迎えするのみ。
「4時49分。間に合いますね」
ぱちんという銀時計が閉じる音が廊下に響く。右に曲がり少し歩くとlibraryと表札がかかっている部屋に差し掛かる。
2回ノックし、セバスチャンはアイリーンからの反応を待つ。
「お嬢様、もう少しでお客様がいらっしゃるのでお着替えを済ませましょう」
中からの反応は全くない。まさかまた鬼ごっこでもやるつもりなのかとセバスチャンの眉間のシワがどんどん深くなっていく。
もう一度2回ノックしてさっきと同じことを言ってみる。やっぱり反応はない。
「お嬢様、失礼しますよ」
図書室の扉を開けてみると本棚にもたれかかりながら寝ているアイリーンの姿があった。
足元には本が一冊落ちており、アイリーンの手に持ったままの本はページが開いたままだ。
夕日に照らされる横顔。
このまま喰ってしまいたい。
「…ん…セバ…ス…チャン…」
ゾクゾクゾクッと悪寒ではない刺激がセバスチャンの背中を走る。
目を赤く光らせて頰にそっと触れてみるとアイリーンはふいに微笑む。舌なめずりをすると頰から指を離し、アイリーンの肩をゆらす。
「お嬢様、お起きください。もう少しでお客様がいらっしゃいます」
「…ああ…そんな時間ね」
アイリーンは前髪をかきあげ、その場から立ち上がるとスカートについたホコリを払う。
「さあ、参りましょう」