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【黒執事】壊れた貴女を看取るまで

第8章 変化


馬車を走らすこと20分。ロンドンにあるオペラハウスに着いた。
年季の入った灰色の外壁に所々に歴史を感じさせる柱や看板は見ていて時代が違うのではと感じさせる。
オペラハウスに入ると身長が160センチくらいの私が両手を広げても大きさが足りないくらい大きなシャンデリアや真っ赤でゴミひとつ落ちていないカーペットなど内装は完璧だった。
廊下の端っこや広間では開演を前にした貴族たちが世間話などを話し込んでいるようで賑やかだった。
私とセバスチャンはそんな貴族たちを一瞥して緩くカーブのかかった階段をのぼり、特別なテラス席に向かっていた。

「あ、リュシアンナ伯爵!久しぶりだね〜」

「こちらこそお久しぶりです。グレイ伯爵」

私は丁寧に頭を下げると後に続いてセバスチャンも頭を下げた。
長い銀髪を一つにくくってすらりと立つグレイ伯爵は女王陛下の執事兼武官を務めており、そんな感じを一切表に出さない飄々(ひょうひょう)とした雰囲気がいつまで経っても慣れない。

「女王陛下はこちらにいらっしゃるよ。伯爵をずっと待ってる」

深紅のカーテンをグレイが開けると女王陛下の後ろ姿が見えた。セバスチャンにグレイの近くにいろと命令してから私はカーテンをくぐった。

「陛下。お待たせして申し訳ありません。アイリーン・リュシアンナ、今参りました」

布とソファの擦れる音がして女王陛下が後ろを振り返ったのが分かる。

「あらお嬢ちゃん、いらっしゃい。堅苦しい挨拶はなしよ?さあお顔を見せて」

私は陛下に促されて顔をあげた。顔を上げると優しい笑顔を浮かべた女王陛下が私を見つめていた。目尻にあるシワがなんともほころんでいて穏やかな老人の雰囲気があった。
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