第8章 変化
「まつ毛が震えてうまく塗れないのですが…さきほど、私に核心を突かれて恥ずかしいと感じられておられるんでしょうかねえ。どうなのでしょう?お嬢様」
わざとらしく耳元でセバスチャンが囁いてきて私は身動きすら取れなくなっていた。
それをセバスチャンは分かっていると思うとなおさら遊ばれている気がして恥ずかしさが増す。
「うっ、うるさいわね、執事のくせに」
「出すぎた真似をお許しください」
マスカラを塗り終わり、目を開けるとセバスチャンはリップを手に取った。ドレスの色が映えるようにと薄いピンクを選び、くるくると持ち手を回して本体からリップを出す。
ーこのままやられっぱなしだなんて…!
私はセバスチャンのリップを持っている手首を掴んで自分の方に引き寄せる。驚いたセバスチャンの顔が1ミリ先にあり、私はひと思いにキスをした。水っぽいリップ音が部屋に響いた。
掴んでいた手首を離した後にゆっくりと顔を離し、セバスチャンを見てにやりと笑ってやった。
「私だってこれくらい出来るのよ」
中腰で私がキスする前の顔をしたままのセバスチャンがリップを化粧台に置く。
するとセバスチャンは私の後頭部に手をあてがって顔を近づけてくる。
「んっ!」
さっきの私のキスなんかよりも深いキスが唇にのせられた。
右に左にと角度を変えて唇を交わらせ、溢れそうになる唾液を抑えながら何度もキスをする。
徐々に酸素が足りなくなり、息が苦しくなってくる。目をうっすらと開けてみるとセバスチャンは苦しげな表情を浮かべていなかった。
口の中に生暖かいにゅるりとしたものが入ってきて私は体を後ろにそらしたかったが、それをセバスチャンが抱きしめるように妨害してきて出来なかった。