第8章 変化
「褒美目的で言った訳ではございませんよ。ただ、もしあなたと恋人だったならと思いまして」
細い指が私のサイドの髪を編み込んで中央にあるお団子と合流させる。私がセバスチャンの方を振り向くとセバスチャンが引き出しをあけてリップ、マスカラ、ビューラー、アイライン、アイシャドウ、ファンデーション、チークを取り出して化粧台の上に並べると、ファンデーションのパフを私の肌に滑らせた。
シェリーからもらった化粧道具はとても使い心地がよく、あれからよく使用しているのだ。
「恋人なんて欲しくないくせに」
私は目を閉じた。セバスチャンが青色のアイシャドウをまぶたの上にのせて、アクセントに目尻にドレスと同じ色のシャンパンゴールドのラメを軽く散らした。
次の道具を取るためにセバスチャンとの距離が近くなる。
「ひゃっ!」
セバスチャンの吐息が私の耳をかすめて肩をビクつかせた。耳の中にまで吐息が入り込んだような気がして耳がもぞもぞする。
さっきから私が恥ずかしいと思うことばかりだ。顔の赤さは一向に変わらない。
「息がかかってしまいましたね、失礼いたしました。しかし…それだけでこんなに可愛らしいお声を出されるんですか?」
また私は目を力をこめて閉じるとセバスチャンがマスカラをまつ毛に塗った。