第8章 変化
「いった…」
幸い、ぶつかった衝撃で本棚の本が落ちることはなかったが、打ち所が悪かったのか動けない。
足も手もビリビリしていて動かそうとしても動けない始末だ。
こんな所をセバスチャンに見られてはきっと小馬鹿にされる。でも動けない。
「セバスチャン…」
「はい」
静かに靴の音を鳴らしてセバスチャンが尻餅をついた私に向かって跪く。
「動けないから抱っこして」
私が全く動けないのをいいことにセバスチャンは私をまじまじと見つめる。その5秒後に吹き出すと私の膝の裏と肩を持って抱き上げた。
セバスチャンの香りが間近に感じる。動けたのなら今すぐにでも降りているのだが、動けない今は赤面するしかなかった。
「上の階から物音がいたしましたので、なにか起こったのかと思い少し焦りましたが…頭を打って動けなくなった程度なら杞憂でございましたね」
セバスチャンが意地悪に笑う。私はあからさまに不快な顔をしてセバスチャンの胸に倒れこんだ。
肌触りのいい生地のカッターシャツの下にあるセバスチャンの胸元から聞こえる心臓の音を聞こうと思ったが、悪魔だからそんな音はしない。
「おや。今日は甘えん坊さんなんですか?」
「違うわ。ただ、久しぶりに心臓の音が聞きたかっただけ」
すると脳裏にあの言葉がよぎった。
『地獄って知ってる?』
甘い声音とは裏腹にどこか憎らしいとも言いたげでもあった。そしてあの美人は一体…
私がしばらく考えこんでいるとセバスチャンが寝室のドアノブをひねった。そして私をベッドの上におろすと布団をかけてロウソク立てを持った。
「それではお休みなさいませ」