第8章 変化
私は湯浴みを済ませ、ネグリジェに薄めのカーディガン一枚という姿で書庫を漁っていた。
書庫には私がこの屋敷で育つ前からの情報やアルバムがある。このモヤモヤもどこかに消えてしまうかもしれないという希望を抱いて片っ端からアルバムを開いていく。
古くなったアルバムからは鼻にツンとくる酸っぱい匂いがしてあまり長居はしたくない。黄ばんだページの端を一枚いちまいめくっていく。
優しそうに笑う母と父の写真。白黒写真で鮮明に色までは残っていないが、私は両親のことをよく覚えている。
母の柔らかい茶色の髪に優しそうな琥珀(こはく)色の瞳。私が転んで泣いたりしたとき、母はいつも優しい手で私の頭を泣き止むまで撫でてくれたこともあった。
父は堅実な人だった。私たちに女王の番犬として動いていることを悟らせず、血の匂いも残さないで笑顔で帰ってくる人だった。あまり笑う人ではなかったが、たまに向けられるその暖かい微笑みが私は大好きだった。
思い出にふけりながら私はもう一ページめくる。すると時代がようやく追いついたのか白黒からカラーになっていた。
幾分か私も少し大きくなり、父も母も年をとっていたが、優しい微笑みに変わりはなかった。
父と母に挟まれて私ともう1人誰かが写っていた。私はそのページを覗き込む。
母似の茶色の髪と琥珀色の瞳。父似のスッとしぼんだ目尻に薄い唇。年齢は私より年上に見える。それに、私が今までに見てきた女性の中で1番の美人だった。特別目が大きい訳でも、顔が小さい訳でもないのに全ての顔のパーツの均等が取れていて人の手が加えられたかのように整っていた。しかしその琥珀色の瞳には母のような暖かさはなく、ひどく冷たい目をしていた。
「地獄って知ってる?」
耳元で誰かに囁かれて私は勢いよく後ろを振り向く。
「えっ、誰もいな…あでっ!」
本棚にもたれていたことを忘れていた私は全力で頭をぶつけた。