第8章 変化
「いいですか、あなたたち」
私は3人の使えない使用人たちに向かって立っていました。
メイリンのメガネはずれ、バルドの髪は焦げたスチールウールのたわし、フィニのぼろぼろの枝がささった手袋には目をつむっておきました。聞くまでもない理由を聞くのは最高に無駄な時間の過ごし方ですので。
「お嬢様は今、体調が悪く、眠っておられますのでくれぐれも静かに。うるさくしたら給料を減らします」
語気鋭く私が言い放つと使用人たちは「イエッサー!」と叫び、それぞれの持ち場へと戻っていきました。
それにしても、お嬢様はなぜ急にあのようなことになられたのでしょうか。
喘息をお持ちとは伺ったことがありませんし、アヘンを間接的に吸ったから体が受け付けられずああなったのか。
後者が有力ですが私の長年のカンがそうではないと告げています。
私も悪魔として長く生きているのが退屈と感じるほど生きてきましたが、あのようなお嬢様に出会ったことがございません。今までに出会ってきた女というものは大概が体目当て、快楽目当てで私を満たせるものはおりませんでした。
しかし、お嬢様は違います。夜に体を交えることはありますが、決して快楽目当てということではないのは知っております。
私と交わることで安心感と自分が存在しているということを確かめている単なる行為なのだと思います。
その証拠にお嬢様はいつも上の空で私の下で鳴いておられます。悪い声ではありません。
お嬢様にも可愛らしいところはあるものですね。
私は銀時計を取り出して時間を確認するとアフタヌーンティーの準備に取り掛かりました。
万が一、お嬢様が起きられてアフタヌーンティーを楽しまれるかもしれません。
全ての事態を把握して1日を過ごす。これが執事の美学です。