第8章 変化
「アヘンの吸いすぎなんじゃないの?そうよ、で、最近は?」
劉は低いソファに座ると煙管を取り出した。煙管の先から白っぽい煙が上へと登る。
「我はアヘンは吸わないよ。頭が馬鹿になるからね、最近はと言うと…特にはないかな」
手を横に伸ばしてへらへらと劉は笑った。
後ろでセバスチャンが店員と思わしき女の子たちが煙管や巻きタバコを持って誘惑している。セバスチャンが困ったという顔でその女の子たちに対して丁寧に断っているが、エリは受け取るだけ受け取ってそれらをまじまじと見ていた。
「ならいいわ。ここのところ、フィリピンマフィアがよく目撃されてるらしいから気を付けてね」
「もう行くのかい?」
「ええ、こういう店にいるのは1分までって決めてるの」
私は劉に背を向けて店を出た。セバスチャンとエリも後を続けて出てくる。
「うっ、はあっ」
胸が苦しい。心臓を握られて勝手に拍動を変えられているような気分になり、呼吸もままならなくなってくる。
ここが外だということも忘れて目を大きく見開いて首元を抑える。
苦しい、酸素が足りない。脳裏に昔の記憶がフラッシュバックする。
やめてもうここは『あそこ』じゃない。嗅ぎ慣れた薬の匂い。血の匂い。
全部が頭の中で塗り替えられて行く。立っていられない。
『立て!!』
立っていられない。
私はそのまま視界が黒くなった。