第8章 変化
「エリ様、お嬢様が失礼しております」
玄関のドアが開いて笑顔のセバスチャンが腰を折る。セバスチャンの背後には立派な二頭立ての馬車が止まっていた。
「君のところのお嬢様は本当に可愛いね。お嫁さんにとれなくて悲しいよ」
エリは私のただのいとこだから他にも友人もいるし、婚約者だっている。私はエリの婚約者を見たことはないが、相当な美人だったとシェリーが喚いていた。
私がエリの腕から降りるとセバスチャンがすぐさま馬車の扉を開けて私を乗せた。
続けてエリも乗り込むと最後にダブルボタンのコートを羽織ったセバスチャンも乗った。
ワインレッドの座席は座っていてお尻が痛くならないし、振動でむやみに跳ねたりしない。だから私はこの馬車が好きだ。
しかし今はこの馬車にエリを乗せたことを後悔している。
「アイリーン〜、ここに丁度いい膝が空いてるよ、寝転がらない?」
エリが満面の笑みで自分の膝をポンポンと叩く。私は何も言わずに横目で睨みつけて窓に向き直る。
「そんなとこも可愛くていじらしいよね、ね?セバスチャン」
「そうですね、いつもこの様であれば私も報われたと思うものですよ」
私の唇を貪ったその唇が人当たりのいい笑みを浮かべて笑う。ぞわぞわする。