第7章 無意味なひと
ベッドは濃い夜の香りで包まれていた。
セバスチャンに命じて、今私の横にはセバスチャンが全裸で横たわっている。
互いの体液で肌触りは心地悪かったが、セバスチャンの体温は嫌いじゃない。
私は胸元へと頭を滑り込ませて背中に手を回した。
「先程はうなされておりましたが、なにか悪い夢でもご覧になられたんですか?」
「…最悪の夢よ」
「ですのであんなにも甘えていらっしゃったんですね」
「最悪な夢を塗り替えるには…甘い夜が必要なの」
「そんな性格でいらしたとは…また新たな一面を知れて嬉しく存じ上げます」
耳元でふふっと笑う声が聞こえる。私は無表情のままセバスチャンに背を向けた。
「生意気」
私はセバスチャンの腹に拳をいれた。
「失礼いたしました」
「!」
セバスチャンが私の体を引き寄せて後ろから抱きしめる。背中に私の大好きな体温が染み渡る。
「愛しておりますよ、アイリーン」
「…そう、素敵ね」
趣味の悪い悪魔は私をそそのかそうとしている。悪魔に恋をしても意味ないと分かっている私に恋に落ちろと罠を仕掛けてくる。
そして悪魔に恋に落ちた私を嘲笑おうとしてるのだ。どこまでもどこまでもどこまでも趣味の悪い悪魔。
「私は嫌いよ」