第7章 無意味なひと
「あははっ、こっちよ、お姉様!」
緑の芝生をかかとの低い靴で駆け回る。陽気な春の日。真っ黒な黒髪は優しく吹く風に揺られてたなびく。
お姉様、と呼ばれた女の子は苦笑いで椅子から立ち上がるとその子の後をついていった。
「アイリーンったら、そんな走ったらまたこけちゃうわ」
「アイリーンはね、もうこけないのよ」
そう言うとアイリーンは芝生に座ってシロツメクサを摘み始めた。一本、二本…
それを冠にして繋ぐ。
「お姉様!はいっ!」
とびきりの笑顔を見せてアイリーンはお姉様にシロツメクサで作った冠を乗せる。
「ありがとう」
何故だか妙にエコーがかかり、聞いていて気持ち悪い声。顔の半分がどろりと溶けて筋肉が見えたお姉様が笑っていた。
おぞましいその光景にアイリーンは後ずさった。
声も出ない。目の前にいるのはあの優しいお姉様?
「どうして…私を…殺したの…」
歯茎まで丸見えになった口。肉が腐る腐敗臭もしてきて鼻をつまんだ。
「ぜんぶ…返せ…カエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセ」
もう人間の動きじゃない。手首がありえない方向に曲がり、関節を曲げないで四つん這いのまま私に向かってくる。
やめて…お願い、夢であって、ごめんなさい、ごめんなさい